人の心は読めるか?──本音と誤解の心理学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

人の心は読めるのか?

読み手を想像すること。 これは、文章を書くときに必須の作業です。 読み手がどれくらいの知識を持っていて、どのような状況で文章を読むことになるのか。この想像なしには読みやすい文章を書くことが難しいからです。 しかし、本書「人の心は読めるのか?」で一読瞭然のとおり、 人間はもともと、他人の心を想像することを大の苦手としています。

■自己中心性が心のレンズをゆがめる

私も、自分の自己中心性をまざまざと認識させられた経験があります。 ある日のこと。 急ぎのメッセージが入ったため、曲がり角の直前でスマホをいじり始めたら、前を歩いてきた人とぶつかってしまいました。 そのとき私は、 「いつもは曲がり角では気を付けているんだけど、今回はたまたま不注意だった。ごめんね」 と心の中で謝りました。 しかし後日、自分が「ぶつかられる側」になったときは、 「きっとこの人はいつも曲がり角でもスマホをいじっているから、今回もぶつかったんだろう。いい加減にしてくれよな」 と考えてしまったのです。 自分がかけてしまった迷惑は「たまたま」で、 相手から迷惑をかけらると「いつもそうなんだろう」と考えてしまいました。 (相手も「たまたま」だったかもしれないのに) あとで思い返してみて、とても恥ずかしい気持ちになりました。 文章を書くときも同じで、 自分がしてしまった誤記や不自然な箇所は「これくらいなら推測してくれるだろう」と考えて放置し、 相手が残している誤記や不自然な箇所は「これじゃあ全然分からないよ」と捉えて、親切に推測してあげようとはしません。 私たちは自分に甘く、他人には厳しいのです。 このことを自覚するだけでも、文章力は向上します。

■メールに書いたことは50%しか伝わらない

本書にはメールの研究結果が書かれています。 電話に比べてメールは、50%もニュアンスや意図が伝わらないそうです。 つまり、書き手のほうでは伝わったと思っていても、読み手はそう感じていなかったケースが、半分もあったということです。 なぜならメールでは、声の調子や、会話の間合いなどは伝えにくいからです。 しかし書き手である私たちは、「自分は理解しているから読み手も理解してくれるるだろう」と無意識に考えて、ニュアンスや意図を伝え損ねてしまいがちです。

■ステレオタイプ(先入観)で情報の空白を埋めてしまう

本書が解明している重要なことは、 相手についての情報が少ないときは、自分が持っているステレオタイプで情報の空白を埋めてしまうという、人間の傾向です。 たとえば、本書で紹介されているように、多くの人は政治家に対して「嘘つき」「強欲」などというステレオタイプを持っています。 そのため、自分がよく知らない政治家のニュースに接すると、「どうせ不正献金を受けてたんだろう」などと、気軽に考えてしまいがちです。 しかし、驚くべきことに、私たちはその政治家をよく知らないのです。よく知りもしないのに、ステレオタイプが自動的に情報の空白を埋めて、その政治家について判断を下してしまいます。 (そのニュースが間違っていたり、偏向報道されている可能性もあるというのに) よく知らないことについて自動的に判断してしまいそうなときには、いったん立ち止まって、情報を集めたり、別の視点から眺めて見ることが重要です。 このことを知っているだけでも、文章を書きやすくなります。 たとえば、 同じ部署で働いている仲間だからといって、自分とまったく同じ知識や考え方を持っているわけではないのです。 それなのに、勝手なステレオタイプで、「相手もこう考えるはずだ」と情報の空白を埋めることを自分に許してはいけません。 いったん立ち止まって、「本当にそうなのか?」と考えることが大事なのです。 ◯ この本は、謙虚になるために読む本です。 そして、心の視力を上げるために読む本です。 読み手を適切に想像するために、本書は有効です。
人の心は読めるか?──本音と誤解の心理学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
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