誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論

誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論

原題:The Design of Everyday Things 第1章 毎日使う道具の精神病理学 第2章 日常場面における行為の心理学 第3章 頭の中の知識と外界にある知識 第4章 何をするかを知る -制約、発見可能性、フィードバック 第5章 ヒューマンエラー? いや、デザインが悪い 第6章 デザイン思考 第7章 ビジネス世界におけるデザイン 著者 Don Norman 氏は、1988年にアメリカでこの本を出版し、ユーザビリティの概念を初めて明確化しました。古い本にも関わらずその内容は普遍的で、ユーザー中心のデザイン設計の本質を、時代に先駆けて捉えています。1993年にはApple Computer社に請われ、フェロー兼Advanced Technology Groupヴァイスプレジデントを務めたことでも有名です。 (本人登壇のTED動画もありますので、興味のある方はこちらから) ● 私たちはデザインと聞くと、デザイナーだけが関係することだと考えがちです。しかし本書は、ユーザーの行動・認知にもアプローチしているため、デザイン以外にも有効です。 ある対象と人間のあいだのインタラクション(相互作用)の仕方をデザインしているからです。 そのため文章を書くときにも役に立ちます。 (仕事全般でも役に立つでしょう) ● とりわけ第3章「頭の中にある知識と外界にある知識」は、応用範囲が広いです。 人はすべてを正確に記憶した上で行動しているわけではなく、環境に埋め込まれた知識を手がかりに、行動しています。 たとえば私たちは、いろいろな端末で文字を打つとき、すべての文字配列を憶えておく必要がありません。 なんとなく左上に「あ」がありそうだな、そういえば下のほうに「?」があったな、くらいの知識を持っていれば、あとは実際の文字配列を見ながら入力すればいいからです。 正確な知識を脳内にあらかじめ記憶しようとすると、情報が膨大になるので、負荷が高すぎます。 だから私たちは、認知負荷を節約し、外界に埋め込まれた知識をあてにして行動するのです。 そして、たいていの場合それでまったく問題ありません。 ただし、文字配列が毎回変わるようでは使いものになりません。 「脳内の漠然とした知識」で「脳外の正確な知識」にスムーズにアクセスできるよう、脳内外の橋渡しをデザインしてあげることが、肝になってくるわけです。 ● 文章を読む人も、同じように認知を働かせることがあります。 たとえば、ミーティングの開催を伝えるメールを受け取ったとしましょう。 しかし、日々忙しい私たちは、「細かいことはまたあとで読めばいいや」と思って、日時だけをカレンダーに書き写し、当日まで放っておくことがあります。 そして当日になってからメール内の「会議室の番号」を調べて、現地に向かったりするのです。 何でも検索できる世の中になったので、「あとで調べられる細かい情報」は、脳の外側に置いておくことが増えました。 そのため、あとでどのようにその情報を辿り着けるか、という問題が発生します。 もしも書き手が、検索しにくいミーティング名にしていたり、件名には何も書いていなかったりすると、正確な知識に辿りつけずに困った事態になります。 ですから、適切に件名を記し、あとで検索しやすいキーワードを含めてメールを書くことが重要になります。行動をデザインしてあげるわけです。 ● また、業務マニュアルを執筆するときに、 チェックリストを作ることはよくあると思います。 このとき、考えたほうがいいことは3つあります。 読み手の脳内では知識がどのような形態で保存されていて、 外界で活用可能な知識はどのような形態でどこに保存されていて、 そしてチェックリストとして最低限どのようなことを想起させればいいのか。 つまりチェックリストとは、脳内外での知識分散を踏まえて、行動をデザインしてあげるということでもあります。 こうした行動デザインは、文章で業務指示を出すときにも有効でしょう。 ● 第5章の「ヒューマンエラー? いや、デザインが悪い」では、 人間の自然な認知に沿ってデザインしなさい、と教えてくれています。 たとえば 押し下げ式のドアノブを付けているのに、横スライド式のドアにしてしまうと、人間はうまくドアを開けられません。「押し下げる」という行為を予想させるデザインが、「横へのスライド」という行動を阻害するからです。 このことは文章構造にも当てはまります。 ある文章で、以下のような予告をしたとします。 1・過剰書き 2・過剰書き 3・過剰書き 4・過剰書き こういう予告をしておきながら、その後に登場する本文では、4、2、1、3という順序で書いてしまったら、読み手は混乱しますよね。 あらかじめ予想される順序と、実際の本文で、順序が噛み合わないからです。 逆に言えば、 人間が自然と予測するものを文章構造のデザインにも応用すれば、読み手は混乱しにくくなるわけです。 誤読を防ぎ、スムーズな読解を促すことができます。 ● 文章を書くということは、 読み手の心の動きの予測でもあります。 読み手は何に注目し、何を読み飛ばし、何を知っていて、どういう順番で読むのか。 文章を書く人は、常にそういったことを予測します。 そして、その予測の精度が高ければ読みやすい文章になりやすいですし、 精度が低ければ、読みにくい文章になりがちです。 本書は、人間のメンタルモデルを予想することと、対象と人間のインタラクション(相互作用)をデザインする方法論を、惜しげもなく解説してくれています。 文章術に直結するわけではありませんが、文章術の強固なバックボーンを形成する助けになるでしょう。
誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論
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