悪文―裏返し文章読本 (ちくま学芸文庫)

悪文 --裏返し文章読本--

この本の特徴は、「悪文の条件」を挙げていくことで、逆に「良文の条件」をあぶり出していくことにある。 読み手を忘れた文章、長すぎる一文、あいまいな表現、などなど悪文を生み出す諸条件を、AからZまで26の項目にわけて解説してくれている。 しかしながら、ちっともお堅い解説本ではなくエッセイ風の読み物なので、サラサラっと読んでいくこともできる。 本書そのものが、良文のお手本のようだ。 リズムがよく、無用な引っかかりを感じさせず、早稲田の大学教授だというのに、格好をつけたいだけの難しい言葉は一切使っていない。読み手のためにできることを着実に誠実に実践してくれている。 いくつか引用してみる。
頭のいい人は漢字の多いむずかしい文章を書く、という迷信から早く目をさましたい。頭のいい人こそむずかしい内容をやさしく書けるのだ。
あやふやな場合は必ず辞典で確かめる。引くのはめんどうだが、そのために読み手に迷惑をかけて平気でいられる神経では、人の心に分け入る繊細な文章は書けない。
表現は適切をもって最上とする。あるべきところに、あるべきことばが置かれているのが最高の表現なのだ。
それから、 「長い一文の弊害」についての箇所は、私が若い頃に読んで反省させられた解説だ。自分よがりの書き手だった私の頬をパパンっと打って、目の前にいる読み手に視点を合わせてくれたことを、今でも感謝している。
長い文になると、名詞も動詞もいくつも出てくるから、どれが文全体の主語で、どの動詞がどの主語に対応するのか、どの形容詞がどの名詞にかかり、どの副詞がどの動詞や形容詞にかかるのか、そういう選択の可能性がいくつも重なる。一つ一つの判断に、短い文の場合とは比較にならない時間がかかるのである。
単に多くの時間がかかるだけではない。時間がかかるのはむずかしいからであり、むずかしいのは選択の可能性が多いからであって、そこから当然、選択の誤りも起こりやすい。選択ミスによる文意の誤解が生じる危険が増えるのだ。つまり、こんなふうに、長い文は 読み手に迷惑をかけ、苦しめるのである。
文章をまだ書き慣れてない人は、目指すゴールをいきなり「美文」「名文」「読み手の胸にささる文」に設定しがちである。 それは悪いことじゃない。けれども、 そのような文章を書くためには、まずは「良文」をものにする必要がある。 ピカソも、ダリも、ゴッホだって、基本的な技術を持っていたからこそ、飛び抜けた名画を生み出せたのだ。 まずは、悪文にならないよう心がけて、良文を目指そう。 本書はそのための、大きな助力となる。

目次

A 文章作法書のひろがり B 自分に合った本を選び出すヒント C 悪文の正体 D 悪文の諸相 E 構想の致命傷 F 展開の混乱 G 執筆態度できまる悪文 H 読み手への配慮 I わかりにくさの自覚 J あいまいさの確認 K 調子の合わない文章 L 分量の調節 M 投落づくりと切るタイミング N 中止法と文の長短 O 文構造の欠陥 P 主語・述語の脱落と混乱 Q 並列の乱れ R 助詞の手抜き S 修飾のルール違反 T 敬語のバランス U 文末形式の単調さ V 表現の適不適 W 用語の不注意 X 用字の勘ちがい Y 句読点の勘どころ Z 悪文の変身
悪文―裏返し文章読本 (ちくま学芸文庫)
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