悪文 伝わる文章の作法 (角川ソフィア文庫)

悪文 伝わる文章の作法

私は職業柄、文章術の本は山のように読んできた。 しかし結局のところ、すべての本が言っていることは似通っている。 ・長すぎる一文は短くする ・一般的ではない言葉は使わない ・長い文章になる場合は、見出しをつける ・文章を寝かせてから校正する このような平凡な内容にならざるを得ない。 なぜなら、文章というのは人類が何千年も書き続けてきて、そして磨いてきた術(アルテ)なのだから。もはや新規な視点などほとんど残っていない。語ろうとすればどうしても似通ってしまうし、すでに世の中で知られていることばかりになってしまうのは、仕方がない。 文章術とは、退屈で、平凡、当たり前のことの凝集なのである。 ◯ ただ、その平凡なことを怠っているのが、世の中一般の書き手である。 ・面倒だから校正はしない。しても、ざっと表面を撫でるだけ ・長い一文になっても、面倒だから書き直さない ・見出しはセンセーションかどうかでつける。分かりやすさは気にしない ほとんどの書き手が、このように書く。 そして「自分には文章力がない」と頭を抱えるのだ。 ◯ そうして悪文はできあがる。 やるべきと分かっているのに、していないことの集積で悪文になる。 だから、突き詰め、突き放して言ってしまえば、 丁寧に書くしかないのである。 面倒なこともやる、というのが、ほとんどの書き手に対して最高のアドバイスになる。 (無責任なアドバイスでもある) ◯ 本書、「悪文 伝わる文章の作法」は、 面倒さをこよなく嫌う書き手にとって、非常に便利な本である。 巻末の索引に、 「悪文をさけるための五十か条」 というものがあるからだ。 この五十か条で、文章作成で大切なことは言い尽くされている感がある。 1960年に本書が出版され、そのあとに登場した文章術はすべて、その亜流や深掘りであるとも思える。 だから、文章術のエッセンスであるこの五十か条をまずは眺めて、自分に必要だと思ったページだけを読み込めばいい。 サプリメントを飲むように、自分に欠けている栄養素を摂取すれば効率的で、楽ちんだ。 また、1960年以降ずっと売れ続けているという事実が、薬効を高めてもくれるだろう。 多くの日本人が「間違いない」と思っている文章術なのだから、疑わず、信じて、そのまま飲み込めばいい。 そして実際、間違いない。 ◯ 以下に、巻末の「五十か条」を引用する。 ■悪文をさけるための五十か条■ 【文章の組み立てに関するもの】 1 読み手に何を訴えようとするか、その要点をはっきりさせる。 2 読み手のことを考えて構想を立て、その構想によって各分節ごとに段落を設ける。 3 文章の展開は、なるべく素直で、自然な順序にする。 4 長い文章では、結論を予告する。 5 長い文章では、小見出しを活用する。 6 文と文との接続には、接続詞や指示詞をうまく使う。 7 接続助詞の「が」は、安易な使い方にならぬよう注意する。 【文の組み立てに関するもの】 8 長すぎる文は、適切にくぎる。 9 一つの文の中に、二つ以上の違った事項を盛りこまないように注意する。 10 文脈のくいちがいを起こさないように注意する。 11 複雑な内容を表す場合、中止法をあまり長く連ねると読みにくくなる。 12 いろいろな意味にとれる中止法は使わない。 13 いったん中止したものがどこへつながるかをはっきりさせる。これには句読点のつけ方を工夫する必要がある。 14 主語と述語との照応関係をはっきりさせる。 特に、述語をぬかさないようにする。 15 主語と述語との間は、なるべく近くする。 16 文の途中で主語をかえるときは、その主語を省略してはならない。 17 並列の場合は、何と何とが並列するかをはっきりさせる。 18 同じ形で同じ意味の助詞を、二つ以上一つの文中に使わない。 19 必要な助詞を落とさない。 20 副詞の呼応を明確にする。 21 修飾語と修飾される語とは、なるべく近くにおく。 22 修飾語のかかっていく先をはっきりさせる。 23 打消の語によって打ち消されるものが何であるか、まぎれないように注意する。 24 長すぎる修飾語をつけない。 25 修飾語が長くなるときは、別の文にする。 26 受身形をなるべく少なくする。 【語の選び方に関するもの】 27 意味の重複した表現や、あいまいな用語を整理する。 28 持って回った言い方をさける。 29 相手に誤解されるような不正確な語は使わない。 30 ひとりよがりの新造語や言い回しをさける。 31 文章全体のバランスをくずすような、ちぐはぐな用語をさける。 32 読み手の立場を考えた用語法をとる。特に、読み手に指図する表現の場合は注意する。 33 事実とぴったり合った表現をする。 34 比喩の使い方が適切であるかどうかを、考え直してみる。 35 慣用のある用語法に注意する。 36 翻訳調をさける。 37 堅すぎる漢語・文語・専門用語は、やさしい表現に言いかえる。 38 外来語・外国語を乱用しない。 39 口ことばの場合は、耳で聞いただけですぐわかるようなことばを使う。 特に同音異義語には注意する。 40 耳なれない略語は、使わない。 【敬語の使い方に関するもの】 41 できるだけ平明・簡素な敬語を使う。 42 候文体などに使われた、敬意をもつ特別の漢語を乱用しない。 43「お」をむやみにつけない。 44 同じ文章の中で、「お」をあまり続けて使わないよう注意する。 45「お…する」などの謙譲語を、誤って尊敬語として使わない。 46 尊敬語を二重に使わない。 47 必要な敬語は落とさない。 48 同じ文章の中の敬語形が不統一にならないよう、注意する。 49「です・ます」調と「だ」調とは、原則として混用しない。 50 特別の効果をねらう場合には、「です・ます」調の中に「だ」調をまじえてもいい。 (※実際の書籍では、50個の各要素に関連するページナンバーが振ってある) 1960年初版の本なので「漢語」や「候文体」などが登場する。 このあたりは内容が古く、現代ではほとんど当てはまらない。 しかしそれ以外の内容は現代に移してもそのまま当てはまる。 平凡で当たり前で、だからこそ本質的なことを抽出してくれているからだ。 ◯ 目新しく大げさで刺激的な内容を好む人には、本書はまったくおすすめできない。 「ふーん、当たり前のことばっかりだな、つまらん」と、読んだ次の日には内容を忘れてしまっているはずだ。 しかし、当たり前のことを当たり前にやると「覚悟を決めた人」には、響くものがあるだろう。 そういう人に、本書はおすすめできる。
悪文 伝わる文章の作法 (角川ソフィア文庫)
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